西宮 戸建ての市場規模を昨年と比較
水団の汁の匂いを吸い込みながら、子供たちの頬が赤く火照る。
どの顔も幸せそうだ。
カンテラの明かりで子供たちを次々と風呂に入れる父親は、仁王様のように蓬しく威厳があった。
バラックの扉が風でガタガタ鳴ると、思わず父親の胸にしがみついた……。
水団の味、薪の煙、そしてカンテラの明かり。
たぶん今日の父親や母親の世代が子供の頃に感じた「家」に違いない。
掘建て小屋のバラックは、今でいえば犬小屋のハウスみたいなものだ。
まさしく直訳どおりの二間ほどの「家」であった。
子供が成長すると庭の空地に既成の小屋のようなハウスを買ってきて建てた。
プレハブ住宅のはしりである。
いわば離れのようなもので、一つの敷地内で子供が別に住むなど、今では考えられない家族形態だが、その頃は子供の非行も家庭内暴力もなかった。
母屋が狭すぎて寝るところがなかったからつくっただけのことであり、家族の結束は固かった。
戦後の焼け跡の家族。
食べ物も乏しく、みんなひもじい思いをしていたが、それだけに互いを思いやる気持ちが強く、歌の文句ではないけれど「狭いながらも楽しいわが家」。
これ以上まとまりのある家族の姿はあり得ないのではないか、という気もする。
たとえ離れのようであっても家族は一つであり、家などどんな形でもよかった。
つまり、その頃は雨露をしのげるハウスでありさえすればよかったのだ。
しばらくして、集合住宅の団地が現われ、2DKなる新住宅が登場する。
文化住宅も多く建った。
まさに最小限家族住宅であり、台所や風呂、そしてトイレも家の中にできた。
もう子供たちも、こわい思い、寒い思いをして夜中に屋外のトイレに立たなくてよくなった。
当時としては、まさに〝超近代住宅〟であった。
家は単に住む箱であってはならない。
住まいは家族のものでなければならないのだと、ハウス(家)からホーム(家庭)へと発想が変わる。
これは、つい最近のことである。
与えられた2DKなどの住まいにそのまま住まないで、もっと自分たちの要望を入れたり、インテリアを楽しむべきだという声が高まり、ホームづくりが盛んになって、住宅メーカーも社名や商品名にやたら「ホーム」という字を取り入れだした。
このホーム感覚は大成功で、かなりの人々の意識もこれに影響を受け、わが国の住まいは本当に良くなった。
が、ここに来て、はたと困ったことがある。
家庭ばかりを意識して、肝心の家族が不在となり近隣・友人そして社会家族はまとまりを欠いてバラバラになってしまっていたのである。
世の中の変化は、住まい以上に速かったのだ。
せっかくホームとなった住まいも、ここにきて何かに変身せざるを得なくなった。
口先だけで家族(ファミリー)を唱えても仕方がない。
そこで、現代の家族をいったんバラバラに解体してみる。
この作業は比較的やりやすい。
すでに家族バラバラの家庭が多いからである。
すると、家庭の中で父親が一番家から遊離しており、自分のことしか考えていないことに気づく。
もちろん、中には例外もあろうが、会社人間と呼ばれる父親はまず間違いなく自分勝手である。
会社があってこそ家庭が維持できるなどということは詭弁であり、現代社会では当たっていない。
本気になれば家庭優先で充分にやっていける時代だからだ。
会社内の風当たりは少々きつくなるかもしれないが、その分は実力でカバーすれば良い。
場合によっては、脱サラという方法もある。
しかし、会社人間はそんなことはしない。
せっかく安定した企業でそれなりのポジションを確保できていれば、会社人間として会社優先で仕事をしている方が家庭も安泰だからである。
この考えに妻も同調L、夫のことはあきらめる。
夫への期待は捨てておいて、子供に賭ける。
夫の不足分を子供に期待する母親もいれば、自分の老後を考えて子供にうんと尺、くす母親もいる。
いずれも現代の歪んだ親子・家族関係であり、当然のことながら家族はさらにバラバラになる。
そこで、私は思うのである。
家族一人ひとりの人生を、もう一度整理してみる必要があるのではないか、と。
そうすれば、父親も母親も、自分たち二人の人生(ライフ)というものがいかなるものかに気がつくはずである。
子育て中心では住まいの機能が歪む住まいづくりのテーマはやはり子育てだ。
この点は夫婦そろって関心が高く、活発な意見が出る。
が、この子育てについては母親主導型のケースが多いようだ。
夫も意見はあるのだが結局は妻に押されてしまう。
時に妻の激しい教育ママの一面を見て、びっくりしてしまう夫も多い。
いったん母親主導型のプランづくりになると、まるで堰を切ったように子育て優先の家づくりになってしまう。
子供を一人の大人に育てることよりも、未来の〝成長株〟と思って大切にしてしまうこともある。
本来親が担うべき基本的な入間教育がここで忘れられてしまう。
もちろん親としてはそうした大切な基本は教えているつもりでいても、やはり成績が少しでも上がればと願い、子供部屋にいることを良しとする姿勢に知らず知らずなっていることは否めない。
子供は本能的にそれを察知し、成績優先の戦士となってしまう。
教育ママにも上手下手があるらしい。
子供をうまく乗せると子供は本当におもしろいほど頑張る。
だから成績もどんどん上がりますます楽しくなる。
反対に下手な人は、優秀なよその子供をみるとますますあせって、「うちの子は」と目くじらを立てる。
小学生の能力にそんな大きな違いはない。
たまたま乗せられやすい性格の子供か、お母さんの乗せ方がうまいだけなのだ。
うちの子の成績が上がらないのは自分の乗せ方が下手か、子供が簡単に人に乗せられない〝しっかりした子″だと思えばよい。
いずれにせよ、こうした母親の子供の扱い方は何やら本当に〝株〟の上り下りを見る目に似ている。
まさに子供は成長株なのか。
今の家庭はいったい何が本来の目的なのであろうか。
パソコンをいれて家庭で財テクもできる時代になったが、子育ても株式と同じではたまったものではない。
今、家族はばらばらの生活行動となり、共に食事をすることも少なくなっているという。
本来の子育ては子供に温かいごほんを食べさせ、そのおいしそうに食べる姿を見て、成長をよろこぶ、そんなささいなことから始まるのではなかっただろうか。
ここでちょっと成績のことを忘れてみると、子供の成長のたくましさ、勉強以外の知恵や能力の発見があるはずだ。
またそうした発見を見つけることができるのが、本来の住まいだったはずだ。
偏差値で判定される子育ての時代は、本来の住まいの機能をねじ曲げようとしている。
受験生のいる家庭では、その下の弟や妹までもがその成長を忘れきられようとしている。
本来の成長株であった亭主は、言わずもがなである。
これがいかにバカバカしいことか、そしてどれほど家族全員が損をするか、みんながそれに気がつくのはいったいいつのことだろう。
住まいに家長のシンボルを親があまりにも自分の子供を意識してはいないだろうか。
小さい問は可愛いくて一挙一動に注意を払い、小中学生では成績向上のために気をつかい、青年になっては友達のように好かれようと意識し、そして老後はうまく同居させようと期待する。
どの段階の親の姿を見ても見苦しい。
その場ではご当人たちは少しも気づかないのだが、周りで別の親がそうして子供に気をつかっている姿をみると、えらくみっともないと思うはずだ。
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